ワンポット反応は、複数の反応工程や構造変換を連続的に実施し、反応式上に表れない精製工程、廃棄物、作業時間などを削減できる効率的な合成法です。
また、有害で反応性の高い中間体を単離せずに次の工程に進めることができるなど、安全面においても利点があります。
私たちは、プールの消毒剤などとして利用されている安価な薬剤、トリクロロイソシアヌル酸を利用したワンポット反応を見出し、アルコール類からアミン類を直接的に合成する方法を報告しました。
原著論文はこちら。
反応途中でLEDランプを照射することによって反応が著しく加速されることを見出し、①酸化、②塩素化、③アジド化、④転位の4工程を、途中で精製することなく同一フラスコ内で実施し、アミン類を最高83%の収率で合成しました(各工程の平均収率95%以上)。
さらに、この方法を用いて、世界的に使用されている認知症治療薬「メマンチン塩酸塩」の合成を達成しました。
反応はグラムスケールでも実施でき、酸化・塩素化剤として使用したトリクロロイソシアヌル酸由来の副生成物は濾過によって簡便に取り除けます。
過剰な試薬も必要とせず、グリーンケミストリーの観点でこの反応が様々な分子の合成に応用されることを期待しています。
さて、この研究の着想源は、実は2018年のリンカーン大学への訪問に遡ります。
当時反応のコンセプトは確立できたものの、十分な応用性や効率性を見出すことができず、論文として公表するには至っていませんでした。
帰国後に4年生と反応条件や応用性について検討を重ね、昨年度からは院生の山口君にもテーマに加わってもらい、最後はとても大変でしたが、どうにか完成形までこぎつけ、満を持して公表できました。
論文の執筆にはあたっては、リンカーン大学のLear先生、Adriaenssens先生と十分にディスカッションし、時には意見が食い違うこともありながら、最終的にはお互い満足できる最高のかたちに仕上がりました。大阪工業大学(OIT)とリンカーン大学(UoL)の共同成果として、心から嬉しい気持ちです。
少し古い写真ですが、OITとUoLの友好として、小林、Adriaenssens先生、Lear先生との写真を掲載します(小林が若干若々しい)。
大活躍した山口君にも是非写真を!と勧めましたが、「笑顔はオレには似合わない」と断られました。このへんがいかにも山口君らしい、心優しき寡黙なクール・ガイです!
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